香りが脳にダイレクトに働きかけることは、最近の研究でわかってきました。匂いは大脳の辺縁系、そのなかの扁桃体、海馬などの部位、そして自律神経系に影響を及ぼします。そのため、その匂いが瞬時にこれらの器官に働きかけることで、ごく自然に気持ちが落ち着いたり、ストレスの緩和を促します。様々なストレスや突然の悲しみなどで気持ちがとても沈んでいるときには、どんな香りがあなたに寄り添ってくれるのかを考えてみたいです。
匂いが脳に働きかけるしくみ
まず、匂いの信号は嗅球に到達します。
嗅球は、鼻からの匂い情報を最初に処理する場所です。
この情報はここで分類され、次の段階で脳の他の領域に送られます。
嗅球は脳の前頭部に位置しており、非常に初期の段階で匂いの情報を処理します。
つぎに、この嗅球からの信号は、脳の扁桃体にも送られます。
扁桃体は感情の処理に深く関わっており、匂いが感情反応(例えば、安心感や不安感)を引き起こす際に重要な役割を果たします。
匂いが私たちの気分や感情を瞬時に変えることがあるのは、扁桃体を通じた影響です。
そして、記憶をつかさどる海馬へおくられます。
匂いが特定の思い出を強く呼び起こすのは、海馬が匂いの情報を過去の記憶と結びつけるためです。
このため、昔の出来事や場所の記憶が特定の匂いによって鮮明によみがえることがあります。
最終的に匂いの情報は前頭葉に到達し、意識的に「何の匂いか」を認識します。
前頭葉は判断、計画、意思決定といった高次の機能を担当しており、匂いの意味を理解し、それに基づいて行動を選択する際に働きます。
深い悲しみに寄り添う香りとは
このような問いかけは、とても難しく、その喪失感に寄り添う香りを選ぶことすら、大変繊細なことのように思えます。
その方を目の前にして、その心に寄り添うことで、提案できるものかとは思います。
ただ、私が香りを実際に嗅いでみた印象と、その精油の背景にあるものをお伝えすることで、すこしでも参考にしていただければ、と思います。
サイプレス(Cupressus sempervirens)ヒノキ科
サイプレスは針葉樹系の香りであり、深い森林を思わせます。
サイプレスの心理面の作用は、まず気持ちを安定させ、針葉樹特有の新鮮な辛味と気血を巡らせ、現実の変化を受け止めようとします。
サイプレス油は私達が困難な変化と向き合い受け止めるようにします。地味ですが、こころにしみ通るような香りです。
サンダルウッド(Santalum album)ビャクダン科
サンダルウッドはお香などでなじみがあります。なので、線香などでビャクダンとして香りに親しむことが多いかと思います。
この落ち着いた香りは日本人にもなじみがあり、また、神経を鎮静させます。昔から瞑想と祈りなどに使われてきました。自分の本質に立ち返り、自分の人生に気づかせてくれる、そんな香りです。
フランキンセンス
フランキンセンスは宗教の儀式に用いられています。とくに神経系に作用し、リラックスさせて活力をあたえます。
また、抗カタル作用と去痰作用があり、呼吸を深くすることや、副鼻腔炎や喉頭炎にも役立ちます。また瞑想や祈ることに使われています。
あたたかで、どこかなつかしい香りです。
ネロリ
ネロリの香りは、好む人が多い香りです。
濃厚なフローラル調の香りは、香水にもよく使われます。
心を鎮め、リラックスさせてくれます。神経系の調整をおこなう作用をもっているため緊張や抑鬱、急性と慢性の不安に役に立ちます。おなじミカン科である、スイートオレンジのような明るさというより、深い濃密な香りです。
ベルガモット
ベルガモットは、柑橘系のフレッシュな香りで、感情を高め、エネルギーを少しずつ回復させる効果があります。
悲しみの中でも、心に少しの明るさや希望を感じさせてくれる香りです。特に、気分の落ち込みや憂鬱感を軽減するために役立ちます。
マンダリン
スイートオレンジのよりも、少し、複雑な香りを持つ、しかし柑橘系のさわやかな香り。
このマンダリンにふくまれる、香り成分、アントラニル酸ジメチルが、セロトニン生合成に関係がつよい、抗不安作用を持つことが知られています。つまり、リラクゼーションやストレス緩和作用が期待できます。
まとめ
香りは、とてもパーソナルなものだと思います。匂いを嗅いだときの状況はひとそれぞれまったくちがうからです。
以前とても心地よく感じた香りが、あるときには何も感じなくなったり、その逆もおおいにあります。
私も、少し前ローズマリーの香りがきついなと思うことがありましたが、いまはなぜか大好きになっています。
ここに紹介した香りはとても古くから親しまれ、心を落ち着かせるものです。
精油はディフューザーでいくつかの香りをミックスして拡散させたり、テッシュなどに1、2滴をたらして嗅いでみてください。香り自体はとてもパワフルなので、すこしづつ味わってみてください。
悲しみは、時を経てすこしづつ癒されていきますが、形を変えた寂しさになっていきます。
悲しみと喪失感の真っ只中にいる、あなたへ。あなたを少しでも癒すことができる香りがみつかりますように。
- 参照文献
- ガブリエル・モージェイ著 前田久仁子訳 「スピリットとアロマテラピー(AROMATHERAPY for HEALING THE SPIRIT)」フレグランスジャーナル社
- バーグ文子著 「エッセンシャルオイルのブレンド教本」フレグランスジャーナル社
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