江戸時代は、香道が確立し、香文化が庶民にも広まった時代でした。香木を焚き、その香りを鑑賞する香道は、武家や裕福な町人を中心に親しまれていました。また、香りのよい香料を調合した匂い袋や、着物に香りを焚き染める「移り香」なども流行しました。

吉原の女性たちに流行った香り
吉原の遊女たちは、香りを身だしなみの一環として取り入れていました。
客をもてなす際や、自身を演出するために、さまざまな香りを用いていました。
特に流行した香りとして以下のものが挙げられます。

– 白檀(びゃくだん)(サンダルウッド)
温かみのある甘くウッディな香りで、江戸時代の香文化において重要な存在でした。吉原の女性たちは、白檀を使った練香(ねりこう)や薫物(たきもの)を好んで使用しました。

– 沈香(じんこう)
高級な香木で、深みのある落ち着いた香り。格式のある香りとして、上級の遊女が特に好んだとされます。
– 龍脳(りゅうのう)
清涼感のある香りで、白檀や沈香と調合して用いられました。体温でじわじわと香ることから、髪に仕込むこともありました。
– 丁子(ちょうじ/クローブ)
甘くスパイシーな香りで、口臭を防ぐために噛むこともあったと言われています。また、香料としても活用されました。
– 麝香(じゃこう)
動物性のムスク系の香りで、濃厚で官能的な香りが特徴。当時、非常に高価なものとされ、特に高位の遊女が愛用したとされています。
当時の香りを使った商品
江戸時代にはさまざまな香りを使った商品がありました。
– 練香(ねりこう)
香料を練り合わせて固めたもので、香合(こうごう)という小さな器に入れて持ち歩いたり、部屋で焚いたりしました。
– 匂い袋(においぶくろ)
着物の袂(たもと)や帯に匂い袋を忍ばせていました。
匂い袋には、複数の香料が調合されており、それぞれが好みや流行に応じた香りを楽しんでいました。
– 髪油(かみあぶら)
香りをつけた椿油が使われました。特に高級なものは、白檀や麝香を調合し、髪に豊かな香りをまとわせました。
– 薫物(たきもの)
白檀や沈香、龍脳を混ぜて焚くことで、部屋や衣類に香りを移すことができました。上級の遊女の部屋では、これを使って独自の香りを演出することがありました。
海外から伝わった香料
江戸時代には、中国や東南アジア、オランダを通じて香料がもたらされました。
– 伽羅(きゃら):
最も高級な沈香の一種で、ベトナムやカンボジアから輸入されました。将軍や大名だけでなく、吉原の最上級の遊女も使用しました。
– 龍脳(りゅうのう):
インドネシアやボルネオ島から輸入された天然樹脂で、清涼感のある香りが特徴。
– 麝香(じゃこう):
チベットやヒマラヤ地域から輸入された動物性の香料で、極めて高価でした。
– 丁子(クローブ)・桂皮(シナモン):
東南アジアからもたらされ、薬用や香料として使用されました。
– 安息香(あんそくこう):
東南アジアからオランダを通じて伝わった樹脂系香料で、甘くバニラのような香りを持っていました。
海外からの影響
江戸時代、日本は鎖国政策をとっていましたが、長崎の出島を通じてオランダとの貿易が行われており、海外の香料も輸入されました。
特に安息香や白檀、麝香などは中国や東南アジア経由で入ってきたとされています。
また、オランダ商人が持ち込んだ西洋の香水に関する情報も、一部の上流階級の人々の間では知られていた可能性があります。
ただし、日本の香りの文化は「焚く」「染み込ませる」といった和の方法が主流であり、西洋の「アルコールを使ってスプレーする」という概念はあまり浸透しませんでした。
まとめ
吉原で流行した香りは、白檀や沈香、龍脳、麝香などの高級香料を中心に、匂い袋や髪油、練香といった形で楽しまれていました。
香料の原材料には国内産のものと、海外から輸入された貴重なものがあり、特に東南アジアや中国からの影響が強かったことが伺えます。
当時の香り文化は、現代の日本の「お香」や「和の香り」のルーツとも言えるもので、吉原の遊女たちは、自らの個性を香りで表現する先駆者でもありました。
現在、NHKで放送されている大河ドラマ 「べらぼう」を視聴しています。
ドラマの展開もわくわくさせてくれますが、時代考証がとても正確におこなわれているな、という印象を強くしています。
吉原での女郎たちの華やかな部分と暗い部分が両方描かれていますし、衣装や肌ざわりのようなものなどを感じることができます。
香りは、みることも触ることもできませんが、きっと、当時もさまざまな香り(匂い)、たとえば白粉や紅、髪につける髪油などの匂い、そして生活の匂いなどがあふれていたことだと想像できます。
このような香りを現代でかいだとき、一気に江戸時代にタイムスリップできるのではないでしょうか。
すこし、レトロな感じの香りも試してみてもいいかもしれませんね。
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